2018年3月19日月曜日

モンゴル人アスリートはなぜ強いのか-3 Монголын тамирчид яагаад хүчтэй байдаг вэ-3

Монголын тамирчид яагаад хүчтэй байдаг вэ-3
モンゴル人アスリートはなぜ強いのか-3

Vol-3 


はじめてこのページを見た方は
モンゴル人アスリートはなぜ強いのか
から読んで頂くとわかりやすいと思います。

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3-1 ハングリー精神
研究計画提出当時、モンゴル人アスリートの強さの理由は、成長期における特性が関係しているのではないかと仮説を立てた。

そういうと必ず、ハングリーだとか、小さい頃から馬に乗り、モンゴル相撲をとって生活しているから身体的な能力が違うというという人がいる。
わかりきったことと。

正直僕もそう思っていた。
鶴竜関やモンゴル人と会うまでは。

彼らと付き合っていくうちに、もしかするとそれだけではないのではないか思うようになり、さらにそれは今後のアスリート育成に重要なことではないかと考え、研究をすることになった。

もし、それだけだというならば
日本のアスリート発掘事業においてもゴールデンエイジと言われる時期に巧みな動作の習得を行なっている子供を集め、ハングリーな環境下で種目別に高度トレーニングを行えば優秀なアスリートが誕生するのであろうか。


きっとそんな簡単ではないだろう。


モンゴル出身力士や、モンゴル相撲力士、モンゴル柔道のオリンピアンに対し率直なインタビューを試みた。


「なぜモンゴル人アスリートは強いのか」


そうすると決まって


「モンゴル人はハングリーだといわれるが、そうとは思わない」


という回答が返ってくる。

ハングリーという言葉の定義が、困窮した生活でも歯を食いしばって生きている中で培われる「精神的な強さ」「忍耐」というであれば、それは人それぞれだと思う。


確かに日本のように裕福で、欲しいものがすぐ手に入る環境とは違い、コンビニやスーパーにたくさんの商品が陳列されているような風景は見られなかった。




“バスケットをやりたくてもボールや靴が手に入らないとか、コーチがいないという不便さはあったけれど、自分たちでゴールポストを作ったり、テレビやインターネットでルールや技を習得した(鶴竜)”




“民主化以前は食べ物は配給制で必要なものは全て手に入るし、食事ができないとか家族でギリギリの生活をしていたという話はあまり聞いたことがない。
確かに物はなかった。それは日本に来て思ったこと。余計なことを知らないから、こんなものだと思っていた(旭天鵬)”


現在のモンゴルは、他国同様近代化が進み、首都ウランバートルでは、世界的ファストフード店や中国・韓国出資のデパート、レストランが立ち並ぶ。
少数となった遊牧民生活をしている人は、昔と変わらず羊や馬を遊牧させ、そこから得られる素材と知恵で生活をしており、冬場はマイナス30℃を超える極寒の中で生活をしている。 しかし、ウランバートルのマンションなどに移住した多くの国民が


“ 都会は便利だが、常に家族が一緒に寝食を共にし、冬でも暖かい家と食事が用意できる遊牧生活のほうが、幸せで何も不十しない ”



とこたえている。




横綱白鵬も父親はメキシコオリンピックの銀メダリストで、現在は大学教員、母親は医師という家庭環境で育ち、著書の中でも



“「バスケをやるときの靴も,マイケル・ジョーダン仕様の靴だった・・・日本円ならば1足1万円もする超高級品だ・・・一般家庭の収入が月1万円だったから半端じゃない金額・・・1か月ほどで履きつぶしては,新しい靴を買ってもらっていた・・・本当におぼっちゃまだったと思う”



と述べていることから、我々が思っているようなハングリー精神という単純なことで彼らの強さは説明できない。

ただ、言えることは

モンゴルは未だに家父長制が根強く残っており、私がインタビューをしたモンゴル人の全員が自分の父親や祖父に対し

「神」

という言葉で表現し、自分の人生において道筋を示してくれる存在であることを語る。
親を喜ばせたい、親が自慢できるような子どもになりたい。
日本人が想像できないほど、そのようなことが強い。


昨今の研究で子供の発育に関して、父親が重要な役割を果たしていることが、近年認識されるようになった。

従来は、父親の役割として、稼ぎ手、監督者、性役割モデルなどが知られていたが、モンゴルのような家族の長への絶対的な尊敬は、子どもの、社会性の発達や知的能力の発達など、精神的発達に重要な役割を果たしていることが明らかになっている。


男女の権利や主張は公平であるべきであると思うが、男性が子どもを産めないように、父親の役割は子どもの成長に大きく影響を及ぼすことから、モンゴル人の強さの秘密はここにもあることを知り、研究の焦点は子どものライフスキルの発達に絞られた。

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3-2 モンゴルの教育

チンギス・ハーンは、世界最大規模の大帝国であるモンゴル帝国を築き上げた人物であり、モンゴル人にとっては、国家創建の英雄である。

社会主義70年余りの長い間、崇拝は禁じられていたが、民主化により、形を変えてチンギス・ハーン崇拝者やモンゴル人としてのアイデンティティとして崇められてきた。

これらチンギス・ハーン崇拝や、英雄叙事詩の先行研究によると、モンゴル人の多くが国家のために尽くした人物に対して、「英雄」「崇拝」という言葉で崇める習慣があることが分かる。



また、文字の使用が特権階級のものとして限定的であったモンゴルでは、口頭伝承や知恵を韻文で伝える営みが盛んで、仏教の影響も受けたとされる教訓的な「ことわざ」が教育的な役割を担ってきたという。


これらのことわざは、家族の長である祖父や父、それに相当する人物から、子どもたちの成長過程における儀礼の中で伝承するものが多い。

代表的な儀礼のひとつに「断髪の儀礼」なるものがある。
医療施設の整わない時代には、乳幼児死亡率が非常に高く、子どもは本当に授かりものだったという。半分は霊的世界の存在である小さな子供に人間が手を加えることはタブーとされ、男の子が3歳か5歳、女の子が2歳か4歳に達すると、断髪の儀礼が家族によって執り行われる。

この際家族から

「長生きし、長く幸せで、父に孝行し、母を助け、国に役立ち、多くの人の先頭となって行け」

という言葉を祝いの品とともに授けるという。

モンゴルの子どもに対する教育は非常に手厚く、外務省によれば、幼稚園は9月1日現在1歳6ヵ月から入園でき、年少(1歳6ヵ月~2歳)、年中(3歳)、年長(4歳)、就学準備(5歳)に分かれていて、国立幼稚園はすべての費用が国家負担となっている。

また、義務教育も、6歳から16歳まで10年制が主であったが、2008年より、諸外国の教育に合わせた12年制に移行し、全国756の小中高等学校で497,022名の生徒が教育を受けている。

私立を除き義務教育の授業料は無料である。

専門学校は78校、専門学校の在籍生徒数は42,231名。

大学は99校、大学在学中の学生数は175,591名。
大学99校のうち90校がウランバートル、9校が地方に位置する。


先行研究では「広い国土に少ない人口が住んでおり、遊牧民も多いこともあって、教育の普及には非常に不利な面が多いにも関わらず、初等教育、中等教育は広く普及している。」と述べている。

さらには、モンゴルの経済成長の源泉を資本、労働力、教育、技術進歩の貢献に分けているエンクーアムガランら(2007)は、モンゴル政府が成長戦略で

「よく教育され健康な労働力は鍵となる資源の一つ」

と掲げたことで、1980年から2004年までにおいて、教育の経済成長への貢献は11%であった。

1990年から94年にかけてのマイナス成長の時期において、教育のみが成長にプラスの貢献をしたと述べている。


このようなことから、モンゴルは古くから伝わることわざ通り、「子どもは宝」として扱う習慣が強いことが分かった。
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